国債

債券にはどういう種類があるか、という問いについては様々な答え方がありますが、国債の発行目的と発行根拠となる法律の観点からいうと、以下のようになります。ただし、債券の販売を行う証券会社にとっては、ひとつの金融商品であり、大きな意味があることではありません。

国債発行の根拠になるのは、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)という法律の第4条で、「公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」とあり、一般的に「建設国債」と呼ばれています。道路やダムなど単年度予算で対応が困難な公共事業に関する支出については、そのための国債の発行が認められる、と理解されているのです。公共事業以外に充当するための資金を得るための国債は「赤字国債」または「特例国債」と呼ばれますが、「赤字国債」の発行にはその都度、特別立法することによってのみ発行が認められます。この2つは普通国債に分類されますが、普通国債にはこの他に復興債(東日本大震災からの復興を目的にした財源確保)、借換債(普通国債の償還の一部に充当する資金を調達)などがありますが、やはり都度の特別立法が必要です。普通国債の他には財政融資資金の運用財源に充当するための「財政投融資特別会計国債(財投債)」があります。要は、国債はその使用目的によって発行が法的に制限されていて、ある程度の自由度があるのは「建設国債」だけということです。財務省は、「建設国債」のことを「4条債」、「赤字国債」のことを「特例債」として統計情報を発表しています。

赤字国債の発行制限については、戦後しばらくは忠実に守られていて、戦後初の発行は1965年の佐藤栄作内閣の時でした。東京オリンピック後の景気冷え込みに本格的に対応するために決められたのですが、それ以後はそのタガが外れたようで赤字国債は恒常的に発行されるようになり、1994年以後は毎年発行されています。「戦後しばらくは忠実に守られ」たと述べましたが、これには戦中に軍事費調達のための国債を乱発した背景があります。国債を購入するのは主に日本国民が多かったというのは現在と同様ですが、陸軍はこれを根拠として国債の発行は(国民が買うのだから)借金には当たらないとして、時の政府に赤字国債の発行を迫り続けました。政府もすべての要求を拒否したわけではありませんが、岡田啓介内閣の大蔵大臣であった高橋是清(元首相・元日本銀行総裁)はインフレが懸念されて以降これを敢然と拒否し、軍事予算の確保よりも財政上の信用維持を優先したために、二・二六事件で暗殺された上に葬儀さえも陸軍によって統制されました。こうした混乱に対する反省もあって、戦後は赤字国債の発行に消極的だったのです。財政法が成立したのも終戦の日のわずか1年半後ですから、反省度合も大きかったのでしょう(ひょっとしたらGHQのプレッシャーもあったかもしれません)。

昨今、防衛費増額が議論を呼んでいますが、もしこの財源のために国債を発行するとするならば、臨時の軍事費確保を建設国債の目的にできるのか、そして赤字国債とするならばその正当性をどのように担保するか、ということが国債発行の根拠の本質的な問題になります。この2つの問題をクリアするのはなかなか困難または相当に時間がかかるものと思われますから、今回は増税で、という方向感が生まれたのだと想像しています。


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